Blog, ハンガリー
闇と向き合うことこそが
脳内はまだウズベキスタン気分でいっぱいだったが、いつまでもアルマトイでグダグダしているわけにはいかない。
むしろカザフスタンにもキルギスにも予定より随分長く居てしまった。
そろそろ中央アジアを抜け出さないと、なんだか旅だけでなく自分自身まで停滞してしまうような気がした。
当初の予定ではウズベキスタンからギリシャへ飛び、そのまま旧ユーゴ圏を北上して南東からヨーロッパを周るつもりだった。
だがここアルマトイからギリシャへは飛行機の便があまり良くない。
高いのも嫌だし乗り換え2回以上も嫌だ。夜着もヤダ。(←我儘)
そんな中、スカイスキャナーで一筋の光のように現れたのが、アエロフロートのブダペスト(ハンガリー)行きの便だった。
乗り換えはモスクワのシェレメーチエヴォ空港で1回、トランジット時間も長すぎず、現地到着は昼。
何より飛行距離の割に価格が安い。
ハンガリーと言えば、オーストリア・ハンガリー二重帝国、ハプスブルク王室、リスト、コダーイ、ドホナーニ…(いやそこは先にバルトークだろ)
正直ほとんど何も知らない。
ブダペストってどんな街?
予備知識もほとんど無いし、予定よりだいぶ早く東欧に入ることになるけど、都合よく便が見つかったのもきっと何かの縁。
思いきって一気にブダペストまで飛ぶことにした。
そこから先は南に下ってみてもいいし、北西に進んでいってもいいし。
良い便を見つけたものの、唯一の問題点はアルマトイの出発時間が早朝5:50なことだった。
夜中に空港に移動するのもなぁ…
かといってアルマトイ空港も何も無いしなぁ。
迷った挙句、前日のうちに空港に入っておくことにした。
暗くなる前の19時頃空港入りし、そこから約11時間、ひたすら待つ。
しかし不幸なことに、空港内に多数あるフリーwifiが、このときは何故か一つも使えなかった。
11時間ずっと。
こんなことなら街中のネットが使えるカフェにでもギリギリまでいるんだった。
仕方ないので、空港のベンチで本を読んだり、写真を見返したり、ウトウトしたりして過ごした。
暇を持て余しているうちに、頭の中に勝手にいろんな思い出が甦ってきた。
出国前、会社で担当してきたプロジェクトや同僚たちのこと。
楽団仲間と取り組んできた合奏やアンサンブルのこと。
あのプロジェクトは今頃どんな風に進んでいるだろうか。
同僚たちやお客さんたちは変わりないだろうか。
来年の定期演奏会はどんな曲目になるんだろう。
みんな変わらず生き生きと演奏しているだろうか。
いや、「変わらず」なんてことはあり得ない。
日本を出てまだ半年弱だけど、自分自身にもいろんな変化があったし、日本でもきっと何かしらが変わっていっているはずだ。
ずっと憧れていた場所に来れて、ずっと夢見ていた経験ができて、自分は今間違いなく、最高に充実した時間を過ごしている。
でもそれは、日本で享受していた、同じく「充実していた時間」を、もう2度と取り戻せないことを覚悟の上で手放した結果でもある。
果たして自分は、自ら手放した大切なものたちに値する時間を過ごせているだろうか。
かつて必死に取り組んだ日々に、そして今もあの場所で輝いている仲間たちに、恥じない生き方ができているだろうか。
今この瞬間がこんなにも幸せなのに、頭の片隅でいつもぼんやりと不安を抱えている。
目の前に広がる景色はこんなにも美しいのに、ときどき心の靄が視界を曇らせる。
それはつまり、それだけ自分が日本でも多大な幸せを享受していたという証拠でもある。
なのに出国前の自分は、前を向くことができなかった。
今、自分はちゃんと前を向けているんだろうか。
いや、でも、常に前向きな人間なんて存在するのか?
誰だって心のどこかに闇を抱えて生きているものだ。
むしろ真正ネガティブ人間の自分は、孤独な時間を通して自身の闇とひたすら向き合うことでこそ、何かを生み出せる気もしないでもない。
目に映る景色を通して心の靄に気づくことだって、ある意味立派な旅の醍醐味じゃないか。
暇すぎて眠すぎてもはや自分でも何を考えているのかよくわからなくなってきた頃、ようやく搭乗手続きが始まった。
カウンターではカザフスタンビザの有無のみ尋ねられた。
「なんで持ってないの」と聞かれたので「日本人はいらないから」と言うと「へーそうだったんだ」と意外そうな顔をされた。
こちらとしてはむしろその反応が意外だった。
ハンガリーからの出国チケットの提示も求められず。
ハープの機内持ち込みも当然のようにOKだった。
むしろNGだった成田・台北・ドゥマゲッティの3件がレアな気がしてきたぞ。
チェックイン後もwifiはつながらず、再び悶々と考えごとをして2時間過ごし、やっとアエロフロートに搭乗。
ウトウトしていたらあっという間にモスクワのシェレメーチエヴォ空港に到着した。
トランジットのみとはいえロシアの地に降り立ったのは初めてで、眠い中でも若干テンションが上がった。
その勢いで、空港内の土産物屋でトランプを見つけたので購入したら、ジョーカーが入っていないタイプのトランプだったので凹んだ。
まぁでも日本では見ない珍しいタイプなので取っておこう。
アルマトイ空港にはなかったけど、シェレメーチエヴォ空港にはプライオリティパスで入れるラウンドがあることはリサーチ済。
おかげでおよそ15時間ぶりにネットが使えた。ありがたい!
軽食も飲み物も幾つかあったけど、アエロフロートの機内食を食べてしまったので満腹だった。
でも何も食べないのが癪でポテトチップスをひたすらバリバリ食べた。
ラウンジに来るとつい元を取ることに夢中になってしまう。
いや、ラウンジに限らず、最近はいつでもどこでもそうなってしまっているかもしれない。
続くフライトも同じくアエロフロート。
こっちもウトウトしていたらあっという間にブダペスト空港に到着した。
着陸時に客席から拍手が起こった。
初めてのことだったので驚いた。
アエロフロートだからか? それともカザフスタン人の特性?
謎。
イミグレでは何も質問されることなくすんなり入国。
ロスバケが不安だったけど荷物も無事受け取れた。
実は自分にとって初の国際線乗り換えで若干緊張していた。
空港のカウンターで乗り合いタクシーを申し込み、ドライバーの到着を待つ。
早く宿に着いて休みたかったけど、1時間半待ってやっとに乗れた。
空港からは30分くらいで宿に着いた。
アンダンテホステル
女性ドミトリー1泊10ユーロ ※5泊以上割引適用額
ホットシャワー、wifi有
チェックイン後すぐシャワーを浴びて、ベッドに横になって泥のように眠った。
このときはまだ、この日からカラコルをもアルマトイをも上回る、ブダペスト長期沈没生活が始まるとは想像していなかった。
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